大野深美 写真展
大野深美 写真展「瞬き」
Lumen Prints Photo Exhibition
影の中に溶け込むようで溶け込まない
微かな光の痕跡は
まばたきをする度に変化する
心地いい光のゆらめきは不確かで儚く
潜在的な何かを思い起こさせる
暗い羊水に揺られ
初めて光に出会った時の感覚だろうか
うつろう光を掬い取りまたたきを記録する
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いつの間にか、カメラを向ける先は光のゆらめきが多かった。
その起点となったのは、アレルギーの症状で呼吸器官や瞼が腫れ
数週間目の前の世界が見えなくなったのがきっかけだった。
回復を見せ始めると、徐々にまつ毛の隙間から光が差し込み始める。
この時の朧げで心地いい光は、まるで母体から生まれてきた時の記憶を
思い起こさせるようで、私には忘れられなかったのだと気づいた。
幾度も光が見えなくなる中で、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされていく。
“光の強さが時刻を告げ 周囲の音で動きを感じる
香りが記憶を喚起させ 肌を撫でる風から湿度を感じる”
その時受けた感覚と遠い記憶の残像が瞼の裏で映し出されていく。
見えている世界は限られたものしか見れておらず
見えていないことの方が多いのかもしれない。
会期:2024年2月12日(月/振替休日)- 17日(土)
時間:11:00-18:30(最終日は15:00まで)
入場料:無料
会場:Gallery Concept 21(Link)
〒107-0061
東京都港区北青山3-15-16
Tel : 03-3406-0466
アクセス:東京メトロ銀座線 / 千代田線 / 半蔵門線
表参道駅 A1・B4・B5出口 徒歩3分
※新型コロナウイルスの情勢によっては上記の内容が予告なく変更の場合もございます、予め御了承くださいませ。
本展はプロローグとルーメンプリント展の二部構成となっています。
写真は、1839年に実用的な写真術が発表されてから現在に至るまでの道程で、様々な技法が生まれました。プロローグでは、その写真技法の中から15種類をセレクトし、簡単な説明とともに作品を展示します。
写真技法の中には、サイアノプリントを調色によって多色プリントに発展させたデュオトーンサイアノのように、後に新たな知見が組み合わさることで、1つの技法から派生して生まれた例もあります。
ルーメンプリント展の技法もまた、この流れを汲んで誕生した技法です。
ルーメンプリントをご覧いただくにあたり、この技法が生まれるに至った写真技法の変遷も、ぜひ皆様にご紹介できればと思いプロローグを設けました。
【作品使用技法】
ソルトプリント、アンソタイプ、サイアノプリント、ウェットサイアノ、
デュオトーンサイアノ、アルビューメンプリント、名刺版写真、
湿板写真(ガラス・ティン)、プラチナプリント、モノクロ銀塩プリント、
カリタイプ、ヴァンダイクプリント、クロモジェニックプリント、
ポラロイド(ピールアパート型)、アーカイバルピグメントプリント、
クロロフィルプリント
プロローグ展の次にご覧いただく展示は「ルーメンプリント」で作品を制作しました。
ルーメンプリントは、黒白銀塩印画紙を使用しながらも、色彩画像を得ることができる写真技法です。
ルーメンプリントは少し変わった特徴を持っています。通常、黒白銀塩印画紙を用いる際は、暗室環境下で露光・薬品処理を行います。しかし、この技法では同じ黒白銀塩印画紙を使用しながらも、全ての工程を明室環境下で行うことが出来ます。また、薬品処理に関しても通常より少ない工程で処理を終えられます。そして、長期間使用していない古い印画紙や購入したばかりの印画紙でも使用可能です。また、デジタルネガティブ・アナログフィルム・フォトグラム等の方法で使用することができます。
そして、なによりルーメンプリント最大の魅力は、独特の色彩です。
暗部・中間部・明部のそれぞれで異なる色を持ち、それらが複雑に混じり合いながら描き出される像は、他の技法に似たものがない美しさを持っています。規則性はありながらも予測できない結果も生み出すルーメンプリント。
その色彩そのものが、写真展「瞬き」の中で共通のテーマとして据えた “ゆらぎ” を体現しているように思え、今回の被写体と技法の組み合わせにしました。
略歴
大野深美
2007年 埼玉県立芸術総合高等学校 映像芸術学科卒業
2011年 日本大学芸術学部写真学科卒業
2013年 日本大学大学院芸術学研究科 博士前期課程映像芸術専攻(芸術学修士号)
2014年 個展【memento】(A.S ANTIQUES GALLERY)
2015年 APAアワード2016【広告作品部門】入選
2018年 APAアワード2019【広告作品部門】入選
2023年 PX3 PRIX DE LA PHOTOGRAPIE PARIS
Professional Fine Art/Still Life部門佳作
同年 TOKYO INTERNATIONAL FOTO AWARDS
Professional Fine Art / Still Life 部門佳作
同年 日本写真芸術学会誌-第32巻 第2号-
「ルーメンプリントにおける色の考察1」
高校在学時に写真、映像、CG等の映像表現全般を学び、35mm〜4×5inchカメラでフィルム撮影を中心に行う。
大学在学時はフィルム撮影も行うが、作品制作はデジタルを使用し「科学×写真」をテーマとした作品を制作。
Chlorophyll printsと出会った事で古典技法に興味を持ち、以後、人体や環境に配慮した作品の研究を深める。
現在は、アトリエ シャテーニュ(東京 八丁堀)にて古典技法の講師を務め、写真技法の継承も大切にしながら新しい表現や技術向上のための研究を行う。
幼少期から幅広い年齢・国籍の人と触れ合う機会が多かったこともあり、「多様性・風化・記憶の継承」への問題意識が近年の作品テーマとなることが多い。制作手法は内容に合わせ、デジタルや古典技法を適宜選択する。
企画 アトリエ シャテーニュ